【2018/12/23】ノートルダムの鐘@川口フロローは愛を知らない哀しい人
川口竜也さんのフロローを観ることが出来ました。
「スカーフを吸い込む勢いで嗅ぐ」とか、「エスメラルダに吐かれた唾を舐めている」とか「ヘルファイアでの目力がすごい」とか、色々な噂を聞いていたのでもっと癖の強くて変態性の高いフロローなのかと思っていたけれど、意外と普通だった。規律を守る堅い大助祭。
だからこそ、エスメラルダとの出会いをきっかけにだんだん狂っていく様子が恐ろしくも、そして何よりも哀しい。
今でも頭から離れないのは、フロローの死の瞬間。野中さんは空をつかむようにもがていたけれど、川口さんはカジモドに手を伸ばしじっと見すえていた。きっと最期のその瞬間まで。
そして投げ落とされる前に聞こえた川口フロローの嗚咽。何に対しての涙だったのか。愛した弟を守れなかった後悔か、弟が遺した子に殺される悲しみか。赤ん坊のカジモドを棄てようとした時にも涙したことを思い出したのか。
わたしはフロロー自身が「自分は間違っていた、カジモドを守ろうと誓ったのに何もわかっていなかったのだ」と気づいて涙したのだと思いたい。
最期の瞬間はジェアンと生活していた頃のクロードに戻って、愛とはなんであったか、家族とはなんであったか、気づいていてほしい。クロードにとって少しでも救いがあってほしい。川口さんのフロローを観てそんなことを思いました。
川口さんは他のキャストの方とは違う切り口でフロローという人物を深堀りして演じているのも面白い。
全体的には堅い雰囲気で落ち着いたフロローだと思うのですが、自分の行為を否定された時や何か正当化したい時に激昂する。怒りのスイッチが入っているときは相手に反論させる余地を与えない。激昂するポイントも「え、ここ?」と驚かされた。カジモドも本当に泣いているんじゃないかと思うくらい。
そして、良いのか悪いのかは置いておいて牢獄での独白シーンの叫びは、芝居小屋で一人芝居を観ているような感覚になった。その叫びを聞いてもはエスメラルダにとっては拒絶の一択でしかないけれど、観ている側へは「人間である」という事実を改めて突き付け、フロローの哀しさがより一層引き立つような気がした。
川口フロローはエスメラルダへの執着も顕著なので好き。ヘルファイヤ前の登場シーンでは右耳を手で覆っている。エスメラルダの影を振り払うようにナンバーに入るのが良いなあ。覚醒って感じ。
大聖堂ではじめて2人で会話する時に、とても自然に一瞬だけエスメラルダに触れようとするところが好き。鐘つき堂でのエスメラルダの会話の時ももうすでに目の様子がおかしかったし、他のフロローよりも分かりやすく(ちょっとオーバーに)エスメラルダの手に目をやり、ほんの一瞬触れる感じも良い。牢獄ではニヤニヤしながらやってくるしスカーフもすごい勢いで嗅ぐ。このフロローの狂気じみた行動を目のあたりにして、誰かがほんの少しだけ一瞬でも優しくあったら負の連鎖を断ち切れたのにって、原作を読んだ時のような苦しい気持ちになった。
川口フロローは、ただ気持ち悪いとか変態っぽいとかそういう言葉で片付けられない。フロローの孤独さとか哀しさを改めて気づかせてくれたし、そもそもフロローはジェアンの死やカジモドを育てる事、エスメラルダに惹かれることについてどう感じていたのだろうか考察したい気持ちにさせてくれた。
劇団四季所属でない客演の立場だからこそ、舞台に良いスパイスを与えてくれていると思う。レミゼの お稽古までの期間限定の出演だと思うので、もう1回くらい観たいなあ。