【2021/2/14M】ミュージカルパレード
「暗そう」と思って避けていた作品。
沢山の人に、「観終わったら体調が悪くなる」と脅され、かなり構えて観劇したけれど想像以上に気分が悪くなった。
"パレード"の場面の美しい旋律、狂気的な紙吹雪。強烈なメッセージが全力でこちらに向かってくる。
プログラムで演出家の森さんが語っていた通り、不思議で不快な体験をした。こんな感覚初めてかもしれない。
アメリカでこの作品が生まれた当時もきっと、1913年に起きた出来事が未だ過去のものではなく現在も続いていることへの嘆きと世の中への厳しい問いかけの意味があったと思う。
2021年、当時から何ら変わっていないこと、形を変えてはいるものの、正義の名のもとに「私刑」が横行する世界だという事実を嫌と言うほど突き付けられる。
作中のセリフで知事が「2000年前に1人のユダヤ人が引き渡された」と、無実の青年を見放したピラトのようになりたくないと言い、一筋の希望が見える場面がある。
しかし、結果的に人々の憎しみの感情を焚き付ける事になり、キリストの時代から変わっていない結果になってしまった。
JCSを観たことがある人はピンと来るけれど、ピラトはジーザス(イエス)を引き渡す。その結果、彼は何の罪もないのに十字架にかけられる。
扇動された民衆たちは、自らが「正義」であると信じ、成し遂げたことに酔いしれる。たとえ結果的に正しい行いでなかったとしても、自分の目には真実として映っている。
インターネットやSNSなどでたくさんの情報が溢れ、何が真実で何がそうでないか見抜く力が求められる時代。
小さな呟きが大きな唸りとなり、結末を変えたであろう出来事がいくつか思い浮かんだ。
生まれや育ち、階級、職業、宗教が違えば、見えている世界、信じるものもそれぞれである。
作中の登場人物も皆、悪意があるわけでなく(ある人もいるかもしれないが)、自らの正義のもとに行動しているから恐ろしい。
誰が善人でも、誰が悪人でもない。
だからきっとこの先も変わらないし、変えることができない。「このような悲劇が起こらないことを願う」、なんて軽々しく言えない。
頭の中でずっと"The Old Red Hills of Home"が流れている。紙吹雪の光景が目に焼き付いて消えない。
答えの見つからない何かを求めて、自分がどこかを彷徨っている感覚。
✳︎
歌唱力と芝居心のあるキャストの皆様のおかげで集中して作品の世界に入ることが出来たし、そのおかげでここまで衝撃を受けられた。
特に、内藤大希さんが良かった。彼の歌でぐっと世界に引き込まれた。
そして、途中で拍手をさせない(出来ない)音楽のつくりがとても好みだった。
作品によっては、観る側が拍手しやすいように分かりやすい流れを取ることも多いだろうけれど、そうさせない・出来ないことが世界観に合っているような気がした。
長く続いて欲しい作品だし、観たことのない人はぜひ観てほしい。
また新たに素晴らしい舞台に出会えたことを嬉しく思う。